2022年3月31日木曜日

英文読解のススメ

 本日、ロイターの日本語版で「プーチン氏に側近が戦況の「誤情報」、軍指導部と摩擦=米報道官」といった見出しを目にした。相変わらず、しょうがないなという感じだが、この見出しにある誤情報という言葉のオカシさについては既に過去の記事で何度も述べた。なので、今日は少し趣向を変えて、なぜ、この見出しを書いた人間は、こういったオカシな言葉を用いてしまったのかについて検証してみることにしたい。
 「Putin misled by 'yes men' in military afraid to tell him the truth, White House and EU officials say」これが先の見出しのもととなった英文だが、この英文に「情報」といった言葉は一切出てこない。それでは、なぜ、日本語の見出しを書いた人間は「誤情報」などというオカシな言葉を用いてしまったのか?それは、彼(彼女)がイエスマンは真実を伝えることを恐れているから、それとは逆の虚偽(真実の反対は誤りではなく虚偽)の情報を伝えていると解釈してしまったことに由来する。【イエスマン】というのは、それが虚偽だと分かっていようがいまいが、トップの意見に異を唱えない人間のことを言う。つまり、Putin the truthmisled by 'yes men' in military Putin そして afraid to tell him the truth yes men をそれぞれ修飾する be の省略された形容詞)は、あくまでイエスマンが虚偽だと分かっていることを示しているに過ぎないのであって、報告したかどうかについては何も言っていないのである。故に、私なら「戦況を見誤る独裁者(経営者ならワンマン社長)のプーチン氏」とする。
 ところで、この英文には mislead の 過去分詞である misled が登場する。この mislead で思い出されるのが、鷲田先生が20211105日に書かれた「読書日日」に登場する「誤誘導」という言葉である。私より多くの本を読んでいる先生のことだから、もしかしたら、何かの本で見たものそのままに、この語を用いられたのかもしれない。しかし、私は「世論をミスリード」するといったフレーズは幾度となく目や耳にしたが、「誤誘導」といった言葉は、先生の日記を読むまで、ついぞ、1度も目にすることはなかった。【mislead】の訳は「①〈人〉を誤った方向に導く[案内する];〈人〉をだまして〔…〕させる〔into〕➁〈人〉を悪事に誘い込む ③〈人〉を欺く, 誤解させる」だが、ここはミスプリント同様、圧倒的多数を占める「ミスリード」でいいのではないだろうか。
 先生が書かれた日記で他に気になったものと言えば、20220114日に書かれた『国家と教養』批判が挙げられる。先生は物書きになって以来、作家の山本周五郎から譲り受けたであろう「売れる本はいい本だ」というテーゼを一貫して主張してこられた(もちろん、私が10代後半の頃に手にした本にも登場する)。そして、私もこの主張に大きな影響を受けた。しかし、今になって思うのは、もし先生の頭に以下のような図式が浮かんでいたら、きっと、矛盾した気持ちを抱えずに前作の『国家の品格』を批判できたのではないかということである。

      売れる本 売れない本

  良い   ②     ①

  悪い   ③     ④

 「悪貨は良貨を駆逐する」あるいは「良薬口に苦し」は共に「売れない本はいい本だ」を意味する。   
 最後にもう1つだけ挙げるとすれば、先生が2022年128日に書かれたバラマキの肯定だろうか。かつて、先生は小沢一郎氏が書いたとされる『日本改造計画』を非常の高く評価していた。その『日本改造計画』で小沢一郎氏が主張するのは、「地域で出来ることはなるべく地域でやり、国家の役割を小さくする」といった社会主義的な政策とは対極に位置する政策である。それに対し、バラマキというのは、大きな政府だからこそ実現可能な政策だと言える。これは、どう解釈すべきなのか?いつか機会があったら、先生に聞いてみたい。
 その先生に絶大な影響を与え、山本周五郎同様にPOPな存在だった故・吉本隆明氏は『反核異論』で技術の進歩の否定を否定する。しかし、原発が他の技術と決定的に違うのは、そのリスク = 保険料だというのを宮台真司さんのネット番組で知った時、私は「なるほどな」と思った。そして、中2の時に吉本さんにハマった宮台さんは、こうも言う。「もし吉本さんが、もう少し外国の文献を読んでいたら、時代遅れの議論をせずに済んだのではないか?」やっぱりニュースは英文に限る!


・参考文献)長谷川慶太郎著『日本は「環境力」で勝つ!』