2021年8月16日月曜日

言葉は歴史の産物

 つい先日、NHKTwitterに「群馬 PCR検査で200人を陽性と誤判定 民間の検査会社が実施」といったニュースを投稿した。誤判定。私はこれまで、この手の誤った言葉を数多く見てきたが、その多くは民間が提供するものだったことに加え、おかしな言葉を使っている文章というのは、それだけで、まず読む価値が無いという情報処理の鉄則に従い、すぐさまゴミ箱に捨てることで対処してきた。しかし、この言葉を用いていたのが、他ならぬ国民から受信料を徴収(強奪?NHK改革論については、いずれ別の場所で書きたいと思う)するNHKともなれば、そうも言っていられないというわけで、今回、特別に筆をとったという次第。なお、私は日本のメディアをほとんどチェックしないので、あくまで私にとって初めてだということを予め断っておく。また、これを機に、私が現在おかしいと感じている言葉も併せて紹介していきたいと思う。
 まず初めに紹介するのは、私がこの文章を書くキッカケとなった「誤判定」という言葉だが、なぜ、この言葉は誤りなのか?かつて一世を風靡した受験参考書に『英単語ターゲット1900』というのがあるが、この単語帳の冒頭には、以下のような(時間に限りのある受験生にはあまりに非現実的な)接頭辞・接尾辞を活用した暗記法が紹介されている。


  例)unkindness un  kind  ness

          否定 語幹 名詞語尾

 

この接頭辞のunは、どんな単語にも付属して、その単語を否定語にしてしまうといった性質のものではなく、あくまで既存の単語を分解した際に浮かび上がってくる記号のようなものだと理解されたい。
 今回、私が誤りを指摘した誤判定の誤、これもun同様に、どんな単語にも付属するわけではなく、誤診や誤謬のように、付属する文字というのは予め決まっている。それにも関わらず、そうではない言葉に誤という文字を付属させているから、誤判定という言葉は誤りなのであって、誤った判定結果が出た場合に用いるべきは「誤+判定」ではなく「判定+ミス(an error of ~)」とするのが正しい。それにしても、何か月か前に見た「誤混入」という言葉には驚かされた。この混入という言葉は、初めからマイナスの意を含んでおり、混入と書けば、それはもう、誤って入ってしまったことを意味するのである(反対語は調合や配合といったところか)。正しい混入とは一体何なのか?書き手には、この事をよく考えてもらいたい。
 また、私が昨年の今頃に指摘した「有観客」という言葉もこのタイプに当てはまる。スポーツなどの興行は観客に見せることが前提である以上、無観客という言葉を使わなければ、それはもう、会場に観客がいることを意味するのである(だからこそ、有観客などというおかしな言葉は今まで存在しなかったのだとも言える)。確かに、今は無観客が常態化しているが、長い目で見れば、やはり無観客というのは一時的な状況に過ぎないのだから、無観客で実施する時にだけ「無観客で実施」と書けばそれで済むし、どうしても観客という言葉を使いたいのであれば、「新潟競馬場が22年ぶりに観客動員へ」とすれば、それで事足りるのである。本来の状況に戻った時に使えない言葉を使うのではなく、一時的な状況は、あくまで一時的な状況として書かなければならない。
 勝手に付属させておかしな言葉になってしまったものとは対照的に、既存の言葉の一部を変えることでおかしな言葉になってしまったものに「障碍(者)」がある。障害者という言葉が、かつて使用されていた障碍者に戻されたのは、障害者の方の「私たちは害ではない」という主張によるものだと私は記憶しているが、それならば、逆に彼らに問いたい。「障」という字はそのままでいいのかと。この障害という言葉は似た文字を2つ連ねた熟語である以上、もし彼らが「害」という字を変えろと言うなら、「障」という字も変えろと主張しなければ筋が通らない。言葉というのは極めて歴史的なものであって、「私たちは害ではない」程度の理由で変えてしまってはいけないのである。私は今後も障碍者を障害者と表記するし、こんな安易な理由で表記を変えてしまった地方自治体は、今一度、考えを改めなければならないだろう。最後に「碍」は「さしつかえる」といった意を表す(だからこそ碍は害に置き換えられた)ことを付け加えておく。
 障と害[碍]は同じ意味だと述べたが、同じ文字ゆえにおかしな言葉使いになってしまったものに「不正」がある。これは楽天銀行でのみ見かける言葉なのだが(最初に目にしてから、もう10年以上経つだろうか)、未だに改善されていないのだから唖然とする。恐らく、楽天銀行は、操作が正しくないということを言わんがために、この言葉を使っているのだろうが、正が不正という形で用いられると、この正は正誤の正ではなく、正義の正、つまり、何かしら倫理的な意味合いを帯びた言葉になってしまうのである。だから、もし、私が不正を働いたというのであれば、それは、単に私が操作を誤ったというのではなく、ハッキング等をして、コンピューターのプログラムを改ざんしたというような事象が存在しなければならないことになる。断っておくが、私の働いた不正は、当然のことながら操作の誤りであることは言うまでもない。
 このタイプの言葉では、他に「副反応(side effect)」というのが挙げられる。ただし、こちらの場合は、先の不正とは若干異なる。最初、この言葉を見た時、私は非常に違和感を覚えたが、これは何も私だけでなく、評論家の副島隆彦さんも同じように感じたようで、氏は自身のサイトで「side effect の訳は副反応ではなく副作用だ」と嘲笑していた。昨年行われたアメリカ大統領選の予測を誤り、加工された画像を信じて「ローマ法王は逮捕された」と主張する自称日本一頭の良い副島さん、治療ではなく予防を主目的としたワクチンによってside effectが引き起こされた場合、その訳は副作用ではなく副反応になるそうですよ(笑)ただ、副作用という言葉がビタミンに対して使われる例も多々見受けられ、ビタミンが薬かと言えば、もちろん薬ではないので、結構いい加減な定義であるということだけは付け加えておきたい。
 つい最近、どこかの格付け会社だか投資会社が楽天Gを投資不適格な会社に指定したというニュースを見かけたが、まともな言語感覚を持ち合わせていない企業が危ないのは当然で、このニュースと上で述べたことが無関係であるとは私は全く思わない。現在開設を準備している私の会員制サイトでは、会員の誰もが容易に運用成績を確認できる株のデモアカウントを設置して(デモなのは、画像を加工するといった細工を防ぐため)、そういった楽天以外の会社についても、会員のみなさんとワーワーやれればなと考えている。ちょうど先頃、有観客などというおかしな言葉を多用するプロレス団体・プロレスリングノアの親会社に当たるサイバーエージェントをショートしたところだが、果たして、この会社(株価)の運命や如何に?