2012年11月28日水曜日

安倍内閣はアブナイ閣

 昨今、日本の政界では、デフレ脱却といったことがしきりに言われています。 昨日も『たけしのTVタックル』を見ていたら(普段はほとんど見ない)、やはり、そのテーマで盛り上がっていた。安倍総裁に限らず、大竹まこと以外の(笑)多くの出演者もまた、日銀は金融緩和をして景気を回復させるべきだと主張していました。経済学のごくごく初歩的な入門書には「景気がいい(悪い)=物価高(安)」と出てきますので、それも当然なのでしょう。

 確かに、景気と物価には相関があります。金融緩和によって物価が高くなれば、先の原則から、景気が良くなると考えるのも自然なことかもしれません。しかし、日銀が金融緩和をして物価が上がるのは、それによって、金利が下がった結果、資金を借りやすくなった企業(デフレファイター)が設備投資[I]をするからです。いわば、景気と物価というのは、小室流でいうところの“恒等式”的な関係であって、物価が上がった結果、景気が良くなるのではない(注1)。

 このように、物価というのは景気に連動しなくてはいけない。物価を上げたはいいものの、それでもし景気が回復しなかったらどうなるのか?それこそ、金融資産は目減りするだけということになりかねない。インフレというのは、金融資産の目減りと裏表の関係であって、そこを誤解している人間があまりにも多い。だからこそ、“インフレファイター”である日銀は、そういった事態を警戒するし、消費者物価をゼロにしているのである。今回の件に関しては、良識ある判断だったと言うほかない。

 つまり、マネーがジャブジャブにも関わらず、全く企業活動に反映されていないところに、今の日本経済の問題がある。やはり、それは「経済学概論②」で述べたように、元安ということとも密接に関係してくる
。どこかの無能な政治家のように、小渕内閣の財政出動に何も学ばず、金融緩和により、さらなる国民への背信行為を続ける政策はどうなのか?それよりも、いま必要なのは「プラザ合意」のような為替政策だろう。



 注1・・・金融緩和した結果、物価が上がって…というのは、古典派の貨幣数量説といったイメージがある。〔M=kPY〕で表されるこの理論は、初めから完全雇用が達成されているので(景気がいい)、景気回復とは何ら関係がない。






 

 





2012年11月25日日曜日

経済学概論②

  国内のマクロ政策では景気回復は如何ともし難いことは、前回確認しました。どうやら、自分の資産は自分で守るほかなさそうです。そこで、次回は②金(実物資産)への投資について触れるわけですが、その前に少しだけ国外に目を向けてみたいと思います。

 世界はこういった状況ですから、オカルト本、失礼、副島本によると、アメリカ大統領はオバマからヒラリーに代わるらしい。BAD COPであるヒラリーが戦争によって景気を刺激するというわけです。しかし、それで本当に景気が回復するんでしょうか?というのも、「昭和30年代以降」、株式投資の世界では、「戦争は売り」というのが常識になっているからです。恐らくこれは、ヘクシャー・オーリン・サムエルソンの定理(注1)によるものではないかと、私なんかは考えています。

 詳しくは『国民のための経済原論Ⅱ』に譲りますが、要するに、これまでレーニンの『帝国主義論』にみられた植民地支配というものが、実は貿易によって解決されることが証明されたわけです。この考え方を背景とした「比較優位説」というのは、相互に依存することを前提としているので、戦争は生産活動にとってマイナスでしかありません
。これは、将来にわたって大きな戦争が起こらないことを意味します。ヒラリー大統領誕生という予言は外れました(注2)。

 このように、我々はいま、相互依存による平和な世界に住んでいます。そこで起きるのは、戦争ではなく“通貨”の問題であり、どうやら不況の原因もここにありそうです
。「輸出国家」である日本にとって、アメリカと中国というのは最大のパートナーなわけですが、この2国に対して円は非常に高い。また、中国にとって日本は最大の輸入相手国なので、日中両国にとって人民元(レンミンビ)が切り上がるのは望ましい(注3)。それにも関わらず、なぜ人民元は切り上がらないのか?

 一見、アメリカが促しているのに対し、中国が必死で抵抗しているといった印象を受ける。しかし、今のままで好都合なのは、実はアメリカなのである。というのも、アメリカは昔から「輸入国家(=国内消費中心)」であり、中国はカナダと並ぶ最大の輸入相手国だからである。切り上げたいと思っているのは、どちらかといえば中国の方だろう。中国は輸入・輸出がほぼ半々なので、元が安いということに、それほどメリットがない。

 また、中国内部の政治といったものも、元の切り上げを阻んでいる。今までの中国経済というのは、元高に肯定的な北京派=共青団系ではなく、否定的な太子党が舵取りをしてきた。この上海閥を中心とした太子党には、海外にドル建ての資産を隠し持っている人間がたくさんいるので、元高を嫌っているというのが本書である。恐らく、これは本当でしょう。アメリカが彼らを支援しているというのも筋が通る。

 アメリカにとって日本はそれほど大きな輸入相手国ではないので、たとえドルが円より安くても、現状維持がいいというのは説明しました。日本はここをどうするのか?(注4)今後の中国の動向とともに注目です。



 注1・・・サムエルソン『経済学』(岩波書店、「初版1948年」)



 注2・・・


 注3・・・あえて入手する必要もないとは思いますが、経済データの簡易版としてなら、本書は利用価値大です。例えば、p.71にある元相場のグラフと日本の株価のグラフ(こちらは本書にない)を比べてみると、面白いかもしれません。もう少ししっかりしたものとしては、財務大臣である(笑)野口悠紀雄さんオススメの『経済統計の「超」読解術』があります。いずれにせよ、金利と物価ぐらいは、いつもチェックするよう心掛けましょう。
 注4・・・この問題を指摘したのは「飛耳長目」が初めてなので、今のところ、日本に対応できる政党はありません。ドルやユーロが安いのは、輸出のための戦略といった理解しかできないようじゃ困るよねぇ(笑)



 


2012年11月18日日曜日

経済学概論①

  つい最近、ユダヤ金融資本から資産を守るためではありませんが(笑)副島隆彦著『新たなる金融危機に向かう世界』を手に取る。米国発の金融危機によって、ドルは崩壊し、世界は不況に陥った。このような不況下にあっては、①政府による財政政策、および②金(実物資産)への投資が重要である。こういったところが、本書に限らず副島経済・金融本にみられる共通のテーマなわけですが、果たして本当にそうなんでしょうか?
 
 

 まず①に関してですが、この人の経済理論というのは、基本的には(サムエルソンを解説した)小室直樹さんそのものです。いわゆるケインジアンですね。確かに、固定相場制であれば、本書でも主張する財政政策中心の理論というのは
有効でしょう。実際、サムエルソンは1960年代に隆盛をきわめました。しかし、日本は1971年のスミソニアン合意の後、1973年にブレトンウッズ体制から変動相場制に移行します。

 変動相場制における理論では、それまでのIS-LMモデルとは異なり、海外部門[rw=世界金利]を考慮しなければなりません。なぜなら、資本はより高い金利を求めて移動するからです。資本が流入すれば、当然、為替レートは増価します。よって、仮に財政出動したとしても、その効果は一時的ということになります。一般に変動相場制においては、財政政策は無効であり(注1)、金融政策が有効だとされています。

 


 財政政策のもととなる国家の予算(注2)というのは、おおまかに言って税金[T]と国債で成り立っています。そのうち景気を構成する消費は〔所得-T〕(可処分所得)と定義されるので、増税は景気回復の邪魔になりかねません。また、国債にしても、国家が政策に使えるのは、歳入から国債の利払い費(これをIPという)を除いた額なので、発行すればするほど利払い費は増え、政策に使える額は限定されてしまう。

 これは国家のスタビライザーとしての機能が果たせなくなることを意味します。「経済的自由権」というのは“積極目的の規制”を受ける
ので(注3)、現在の国の借金から考えたら、仮に財政政策が有効であったとしても、実行するのは難しいでしょう。また、有効である(とされている)金融政策にしても、ただただ金利が下がるのみです。これは預金[S]している国民に対する背信でしょう(企業はほぼ無利子で借入できる!!)。

 中には、さらなる金融緩和を訴えている政治家もいるみたいですが、官僚にバカにされつくしたというのも分かるような気がします(笑)まぁ、頑張ってほしいですが…。それはさて置き、では、一体どうすればいいのでしょう?次回はそれについて触れてみたいと思います。



 注1・・・
 



 注2・・・かつて、政治は「国家経営」であるとのもと、一般会計予算を用いて歴代首相を評価しようと試みたが、どうにもうまくいかない。そんな折、『無策!』(長谷川慶太郎・森木亮の両氏による対談)という本でバランスシートの話が出てきたときには、目からウロコが落ちた。この本では、その他に「ドルは今後も基軸通貨たりうるか?」といった興味深いテーマも扱っている。

 注3・・・副島さんは別の本で「非正規社員を正社員に近づけるのではなく、正社員を非正規社員のレベルまで下げる云々」といったことを口にするおかしなオッサンを批判していましたが、派遣ビジネスというのは、これから何とかしなければいけない大きな社会問題だといえます。