2023年4月20日木曜日

言葉は歴史の産物(3)

 先々月の後半、私は「マイクロアド(9553)がインフルエンサーを活用して台湾云々」という記事を目にしたことから、この会社の株をショートした(※1)。かつて、とんねるずの木梨憲武は“ロマンチッカー”なる言葉で笑いを誘っていたが、正しくはロマンチッカーではなくロマンチストなのは言うまでもない。もっとも、日本語のロマンチストは dreamy person または名詞の romantic に相当し( influence と同じだ!)、英語の Romanticist は「ロマン派芸術家」を意味するわけだが。
 前回の「言葉は歴史の産物(2)」(2022/1/22)では、このインフルエンサーとロマンチッカーが同じ類の言葉であることについて述べたので、今回は、この言葉が指し示す対象のおかしさについて触れてみたいと思う。この言葉が意味するであろう「影響力のある人間」とは一体どのような人物をいうのだろうか?

 1.日本を動かしているのは東大法学部出身者、もっと言えば大蔵省の役人である(カレル
ヴァンウォルフレン著『日本 / 権力構造の謎』)*現在は大蔵省ではなく財務省だが、その本質は全く変わっていないと仮定。 
 2.大蔵省の役人 = 国家Ⅰ種試験合格者
 3.国家Ⅰ種試験 = これも少し時代がズレるが、谷沢永一先生が指摘するように、大内兵衛・丸山真男・宮沢俊義から坂本義和氏に連なる東大法学部教授(※2)の著書から多くの問題が出題される試験

 つまり、実質的に国を動かしている人間の多くが、彼ら東大法学部教授の“影響”を非常に強く受けており、これこそが本当の意味での「影響力」なのであって、影響力のある人間とは、You Tube で商品を紹介したら、コンビニに置いてある商品が売り切れたとか(爆笑)、そういった次元の話しではないのである。
 その大蔵省の役人を含めたエリート官僚の数は全国民の約0.02%。先のインフルエンサーと呼ばれている人間の目安の1つが Twitter 等のフォロワーの数らしいのだが、彼(彼女)らが坂本氏のような真に影響力のある人間とは似ても似つかない存在であることは、こういった数値の比較からも伺える。私の競馬の師匠であるK氏が言うように「誰しもが立ち止まる、手に入れる、そうした情報はすでに“情報”の価値を失っている。生きている答えは陽の当たる場所を避けて歩く。」のがギャンブルの鉄則であり、これは何もギャンブルだけに当てはまるのではない。そう考えると、インフルエンサーなる笑いを誘う言葉は、コンビニの商品に人々を殺到させるような人間にはピッタリの言葉なのかもしれない。
 ところで、私は、この笑いを誘う言葉を口にする人間の多くが利用する You Tube やニコ生の「配信」という言葉に馴染みが薄かったため、「言葉は歴史の産物(2)」で、配信という言葉は2000年前後に生まれた言葉ではないかという仮説を立ててみた。しかし、その後の読書において、私は1冊の本に1語のみ登場×3の3回この言葉に出会った(本で見かけることなど皆無に近く、それまで辞書に載ることなど無かった言葉をインターネット検索で頻繁に見かけるのは、インターネットの世界 = ジャンク情報の世界だからだろう。)。そのうち、1冊は2000年以降に出版されたものなので、まあ、仮説には合致していたわけだが、あとの2冊が共に1992年と1995年に出版されたものなので(※3)、これにより先の仮説は誤りだったことが判明。私がその数少ない2つの用例から抽出した【配信】の意味は「通信社が新聞社等に情報を提供すること。」である。日本の通信社って、やっぱり変な会社だったんだなあ(笑)
 「言葉は歴史の産物(2)」であと1つ訂正すべきは、「ニコニコ生放送や You Tube の出演者」という部分だろうか。これは単に「ユーザー」とすればよいだけで、タレントでもない人間を大げさに「出演者」と呼ぶこともあるまいと後になって気づいた。もっとも、通信社でもない個人が配信者と呼ばれている以上、彼(彼女)らを出演者と呼んだって一向に構わないのだけれど…
 ちなみに、浅羽通明さんは1989年に出版された自身の本で、「配信」ではなく「配給」という言葉を用いている。この配給という言葉は「映画館に配給」のような形で用いられるのが一般的だが、配信なるヘンテコな言葉ではなく、敢えてこの言葉を用いたところが如何にもインテリらしい。今後も「配信」という言葉を見かけたら、即刻ゴミ箱といった具合に、この言葉を情報を取捨選択する際の重要なメルクマールとして考えていきたい。
 さあ、今年もまた東大法学部出身のエリート官僚が新たに誕生する季節がやってきた。私の書いた文章は、そんな彼(彼女)らに何かしらの影響を与えることができるだろうか?


※1…ショートした初日に利益が出たので約定しようとしたところ、システムの障害により約定できず。その後、地方自治体関連のニューズで暴騰
& 規制の措置で売り増し出来ないことから、かなりの含み損を抱えているが、この値動き & 措置は三井松島HLDG(1518)と同じパターンなので、全く心配はしていない。もう少し辛抱していれば利が乗ることでしょう。その前にトレダビのサービスが終了してしまうのは残念!
※2…佐々木毅教授は東大法のプリンス”とでも言うべき存在なんだろうね
※3…1992年に出版されたものには「ロイターの配信」という記述があり、1995年に出版されたものには「共同配信」という記述がある。ただし、後者は日本人が理解しやすいよう the press association wires を意訳したもので、the Press Association は 報道協会(PA)、wireは 可算名詞の場合は「電報」で不可算名詞の場合は「電信」の意を表す。当然、英語の辞書にも「配信」なる言葉は登場しない。