2023年7月19日水曜日

日本語を荒らすもの

  ちくまWebで公開されている蓮實重彦氏のコラムが何日か前に更新された。今回のコラムは「重要なのは『マイナ・保険証一本化』への賛否などではなく『マイナ』という醜悪な語彙を口にせずにおくことだ」と題され、「マイナ」という略語が槍玉にあげられている。FIFAワールドカップをW杯、オリンピックを五輪、NYヤンキースをヤ軍と表記するマスコミに対し「固有名詞くらい、しっかりと表記せよ!」と主張してきた如何にも蓮實御大らしい批判である(※1)。
 このマイナに限らず、世の中には、人を不快な思いにさせる略語が数多く存在する。今現在、私が不快に感じているのは「コスパ」なる略語だが、なぜ、この略語はこれ程までに私を不快な思いにさせるのか。その最も大きな要因は、マクドナルドのダブチ(ダブルチーズバーガーの略)同様、言葉の響きなのは間違いないのだが、どうもそれ以外に、言葉の使い方が影響しているように思えてならない。
 このコスパの正式名称であるコストパフォーマンスは【費用性能比】同等の処理性能(仕事)を実現するのに どれだけの費用が必要であるかということを意味する。よく美味しい物を食べた時に「コスパ最高!」などと口にする人間を見かけるが、その美味さは先の数値化された = 比較可能な処理性能とは異なり、誰しもが納得し得るものではない。数値化できない美味さに対してこの言葉を用いることが許されるとすれば、それは『ミシュラン』の採点者くらいのものであって、普通一般の人間がこの言葉を用いるのは大げさなのである。きっと私が不快に感じるのは、こういったことが影響しているのだろう。
 また、毎年3月にJRAHPに登場する「ディープ記念」も私が不快に感じる略語の1つである(※2)。これはマイナなどの比ではない。JRAが毎年6月に施行するGⅠレースの1つに、日本中央競馬会の初代理事長である安田伊左衛門翁の名を冠した安田記念があるが、もし、あなたの周りに安田という名前の友人なり後輩がいたら、あなたはこう呼ぶのではないか。「やっさん」あるいは「安(やす)」と。ディープ記念は、その安(あだ名)+ 記念なのである。まあ、ここら辺りが潮時なのだろう。来年からは、教養競馬の対象レースをその年のGⅠレースから過去の名馬が勝ったレースに変更し、それを通して各名馬の軌跡をたどる作業をしていきたいと思う。
 マイナという略語に話を戻すと、御大の主張に特に異論は無いのだが、ただ一点、「誤作動」は「エラー」として欲しかった。もっとも、これは自分の意志というよりも、プログラミングか何かで一般的に使われているであろう言葉に、ただ御大が合わせただけなのだろうが。「誤 + 2字熟語」については既に何度も述べてきたことなので改めて説明はしないが(※3・4)、最近はこれに加えて「強炭酸」や「強洗浄」などといったヘンテコな言葉をちょくちょく見かけるので、この造語が登場するCMの広告主はしっかりと記憶に留めておきたい。
 一時、理系が物凄く持てはやされた時期があったが、結局、理系がダメなのは、彼ら技術畑の人間が先の「誤作動」なる言葉や楽天の株価を下落させた(?)「不正」、或いは解凍や自炊といった言葉に何の違和感も覚えないからである。「なぜ、司馬遼太郎や柳田国男は強いのか?それは、彼らの作品が人の魂に入り込む文学だからである」とは谷沢先生の言だが、その正反対が理系というわけだ。社会は人間が動かしている。ライブストリーミング然り、ヘンテコな言葉を使うくらいなら、英語をそのままカタカナにしておきなさい。
 こう言うと、「いや、文学部は就職に不利だ」と反論する人がいるかもしれない。作家の中谷彰宏さんは、将来、東大に進学して大蔵省に入ることを希望する受験生だった。しかし、進学したのは早大文学部の演劇科。この演劇科はかつては文芸科と合わせて芸術科と呼ばれ、就職はほぼ絶望的、世捨て人の行く学科だと自身の著書に記している。この件を読むと、私はいつも大笑いしてしまうのだが(名著!)、近頃は日経新聞よりも有益だと囁かれている(?)私の「言葉は歴史の産物」シリーズは、そういった、就職とはおよそ無縁の文学が、生き延びる上で如何に役立つかということを主題にしている。
 立川談志さん曰く、昔の人は「新聞を読むと嘘つきになる」という名言を吐いたそうだが、そんな新聞に必要以上の知性を求めるのは、土台、無理な話である。それ故、マイナという言葉が飛び交う新聞なんぞ一切読まないというのも一法だ。しかし、ヘンテコな言葉が生きていく上で非常に役立つのであれば、これを読まない手はない。新聞はヘンテコな言葉の宝庫なのだから。文芸評論をめぐって文革が発生した中国は、近年めざましい躍進を遂げた。文学万歳である。

 

 ※1…大前研一のニュース時評 →  https://www.zakzak.co.jp/article/20221022-OEZG7SHZHJPADCCI7DBSHIHDGI/(コモンデータベースの構築を提唱する大前研一さんがダメだと言ってるのだから、きっとダメなシステムなのだろう。河野太郎の身辺に異変が起きなければいいのだが…)

※2…2020年セントライト記念予想 → https://umanity.jp/coliseum/coliseum_view.php?user_id=a59884603d&race_id=2020092106040511
※3…漢字1文字の接頭辞一覧 → https://docs.google.com/spreadsheets/d/1a-GYsl-4xTgE0AH5He_Y7pHsMkIHQSOa/edit?usp=sharing&ouid=104361410708911767314&rtpof=true&sd=true(この表を作成している過程で、実は「旧~」が誤りであることが判明した。今後は使用しないよう気を付けます)

※4…イギリスのフォークランド出兵を政治や軍事ではなく英文学の知識から予言した松原正氏は「誤作」という造語を取り上げて、「こういった存在しない言葉を使う人間がいるのは、まあいい。しかし、こういった言葉を使う人間を誰も笑わないのは深刻だ」と嘆く。私が再三指摘してきた「誤 + 2字熟語」ではないが、「誤」という文字を論じた人がいたことには驚いた。窪田空穂然り、昔の早稲田文学部は本当に凄かったんだなあ。

2023年7月5日水曜日

プロレスLOVE論

  今から凡そ3カ月前、私は立石のリアル寅さんこと(笑)ターザン山本の発信したNHKを見ていたら(原文はHNK)今、日本は『衰退途上国』と言われているのかあ」というツイートを目にしたこれを読んだ私の最初の感想は、「またNHKか」である。衰退途上国とは一体何なのか?恐らく、このヘンテコな言葉を考えた人間は、発展途上国の発展を対義語の衰退に置き換えたのだろうが、途上というのは「右肩“上”がり」という言葉からも分かるように⊕の言葉であって、衰退という⊖の言葉とは相容れないのである(※1)。また、これと似た言葉に「拡散」という言葉がある。時折見かけるツイートに「(このツイートを)拡散よろしくお願いします」といったものがあるが、この拡散は「核拡散防止条約」といった具合に、本来、⊖の対象に用いるべき言葉であって、自分の書いたものに用いる言葉ではない。もっとも、ツイートの多くはジャンク情報である以上、コチラの場合は必ずしも間違いだとは言えないのだが(爆笑)今年の安田記念もご多分に漏れずNHKマイルカップの1着馬が敗退したのは必然という他ない(※2)。
 ターザンのツイートでもう1つ気になったのは、「武藤敬司はアントニオ猪木を超えたか?」である。武藤敬司は闘魂三銃士の1人である以上、彼と新日本プロレスを旗揚げしたアントニオ猪木を比較するのは極めて自然なことだ。しかし、ターザンは彼のもう1つの側面であるグレート
⁼カブキ → グレート⁼ムタの存在を忘れてしまっている。つまり、アメリカン・プロレスこそが後に全日の社長となる武藤のアイデンティティなのであって、ジャイアント馬場はとらやの羊羹或いはジャイアント馬場がクラシック = 世界基準なのに対しアントニオ猪木はジャズだといった素晴らしい見解を披露した人間なら、そこは「武藤敬司はジャイアント馬場を超えたか?」或いは「前田日明はアントニオ猪木を超えたか?」としなければいけない。棚橋弘至が新日本プロレスから猪木さんの写真を撤去したのは、前田日明がアントニオ猪木の正統な後継者であり、前田日明の旗揚げしたUWFこそが“新(真)”新日本プロレスであることを感じ取った彼の無意識の顕れなのだろう。

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20世紀プロレス / ダンスの全体像

  テレビ局       プロレス         ダンス
 NHK     (大相撲)       

           ↓            
        日本プロレス        
         王 ↓ 道     『元気が出るテレビ』
①日本テレビ 全日本プロレス 
   ↳「ダンス甲子園」 
           ↓ 
          ノ ア
②TBS    
際プロレス      
③フジ   (女子プロ)/
K-1     『ダンス・ダンス・ダンス』
             ↑
       UWF → リングス
         ↑
④テレビ朝日 新日本プロレス  
   『Club DADA

             ⇩

 プロレス = テレビの終焉 →「現代スポーツの全体像」へ(※3)


①【全日本プロレス】NWA = ジャイアント馬場
 【ダンス甲子園】90年代ダンス・ブームの火付け役
②【国際プロレス】私は藤波・長州世代なので、流智美さんの本で勉強しないとね。
 【????】ダンス番組が無かった唯一の局。正確には無かったのではなく、数回で打ち切りになったのを、つい最近、古くからラッパーをやっている方の YouTubeチャンネルで知った(まるで国際プロレスじゃないか!)。ちなみに、この方のチャンネルは、『ALIVE TV』のビデオをダンス界に広めた張本人が登場するなど、とにかく凄いの一言。
③【K-1】時代はプロレスから格闘技へ
 【ダンス・ダンス・ダンス】司会が関西のお笑い芸人で、放映されない地域もある且つヒップホップではなくハウスのダンサーがメインのダンス番組。ダンスの主流からは外れているが、この番組に「Oaktree」という知る人ぞ知るダンスチームが出演していたことをつい最近知った。果たして、見る機会は訪れるだろうか?
④【新日本プロレス】やがてK-1へと繋がるリングスを旗揚げしたゴッチ門下生でアントニオ猪木の正統な後継者である前田日明を輩出。
 【Club DADA】ゴールデンタイムではなく深夜に放映された番組だが、「ダンス甲子園」とは異なり、ZOO や EXILE といったメジャーなアーティストを輩出。

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 あの技が凄いなどというのは小学生や中学生の楽しみ方なのであって、真のプロレス者は上に記したプロレスの“構造”を楽しむ。
何か新たな発見があれば、その都度、会員ページの方にアップするので、興味のある方は是非一度チェックしてみて下さい。ノア = 新全日本プロレスの武藤敬司選手、長い間、本当にお疲れ様でした。


※1…つい最近、私が株式評論の師と仰ぐID野球否定論者の蓮實御大が「科学技術」という言葉を批判しておられたが、もしターザンがこういった知性を持ち合わせていたら、「
武藤敬司はアントニオ猪木を超えたか?」などという問いは立てなかったのではなかろうか?
※2…NHKの改革案は「プロレスLOVE論」を導入部としているため、本の方に収録する予定でしたが、裁判所がおかしな判決を出すといけないので、敢えてコチラに投稿しました。続きはもうしばらくお待ちください。
※3… https://uk-international.blogspot.com/2022/09/blog-post.html(Weekly の ML は空白なので、そこに“UFC“と書き込んでおくといいかもしれないね)